水底ガムシロップ

世の中わかんないことばっかりだ

【SideM】葛之葉雨彦は問題児のまま進み続ける

soremosouka.hatenablog.com

一年ほど前この記事を書いた。正直一段落だと思っていた。

4月頃に全くそんな事はないと思い知らされた。そして今回、またLegendersのお話は大きく大きく動いた。当日のオタクの熱を残しておきたいのでまた文字を書くことにする。

 

それにしても今回の衣装綺麗すぎる

 

※「めぐり合う星々★七夕LIVE」のネタバレが満遍なくあります

※いつも通りすべて妄言です

 

 

■タイプリからここまでのおさらい(知ってたら読まなくていい)

①Time Before Time(サイスタ)

タイムプリディクションを乗り越えたLegendersに冬の季節、新しい世界からの贈り物があった。

一見すると自分と側にいる人とのいじらしい関係性の変化を歌ったラブソングに見えるそれは、よく見れば「時計には短針と長針と秒針があり」「Legendersそれぞれの関係性の変化に対するラブコール」でもあった。

かっこいいスーツ姿のお写真ももらい、さらには最初から最後まで激烈最高最高最高な3DMVまでもらっちゃった。

折角なので見てください。

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や~いいですね!!!しばらくこれ見て休みだな~ってMV出たくらいの時まで思ってたね!!!

 

②バレンタインライブ2022(モバ)

雨彦にとってはタイムプリディクションの後の初カード。

ここで英雄たちと交流したことで、ひとつ雨彦は気が付いた。

 

 

これひっくり返すと「自分が何に興味があるのか知らなかった」という事になるんだけど、とにかく「想楽とクリスと、他のみんなに興味があるんだなあ」というところに気が付いたのだ。

 

③Jet-Black Shadow!!Live(モバ)

そして割とすぐあと、なんだか不思議なとっかかりのあるイベントがあった。神速両面のお供をすることになったシルバーアクセサリーのイベントである。

勿論レジェとしてのポイントはストーリー06。想楽から雨彦への「雨彦さんがそんな風に言う(行動する)とは思わなかった」が初めて出た。そう、ここで。

今にして思えば完全に今回と前回のペンギンイベの布石だったのだが、バレンタインから周りを見る事の認識を改めた雨彦の変化に、想楽が意外に思うというシーンしか知らない頃だった私は「なんだこれ?」と思っていた。ジャズの時もそうだけどマジですげえよモバは…

 

④氷上のアクアリウム ~個性豊かなペンギン達~(モバ)

正直これだけで怪文書が一冊描けるくらい大変なイベントだった。未読の方は上のと合わせて読んでください。合わせてもタイプリと同じくらいだと思うので。

 

・かねてからファン(現実世界の私たち含む)の間でモチーフと噂されたペンギン

・直前に発表されたナンジャタウンコラボの絵、直後に発表されたサイスタSSRの明らかに「かわいい」寄りの姿

・法律改正により今まで「大人(20歳)になる直前、子供とのはざまである19歳」だった部分が消えたこと

・そこに端を発し、「子供と大人の狭間ではなくなった北村想楽を再度モラトリアムにする」という目標で(たぶん)、「自分らしさって何?」を再度問わせるストーリー

・今までは見守ってきたことの多かった雨彦が「見つめ、助ける人間」として翔真さんの手助けを借りてついに手を伸ばす

・まさかの根本解決しない、晴ればれとは終わらないストーリー

 

いや~すごいですね。褒め言葉ならいくらでも出てきますけどすごかったですね。

コラボもサイスタも利用し待ちに待った水族館仕事をクリスさんへのデバフに使うのもうますぎ怖すぎで泣きました。偶然ならいいけど偶然でそうなるか?

想楽くんのチェンジ後のお顔があれ?今回は作画おとなしいなと思ったらそれも多分意図してるっぽい(あんな精神状態で最高のお顔は確かにできない)のも唸りました。

 

そしてここでも想楽は雨彦の直球の「大丈夫か?」に驚いている。クリスも驚いてたけど。これも伏線ですね!すげえや。

後は本編で書くのでおさらいはここまで。

 

■雨彦の変化

ストーリー6、舞台に立ってたくさんのファンを前にした雨彦が自分の短冊に書いた願い事を言うシーン。内容も衝撃が強すぎて初見は「ユニット婚二回目?」しか言葉が出てこなかったがクリスと、特に想楽の受けた衝撃は半端なものではなかった。ちなみにこれにはちゃんと流れがある。

 

「氷上のアクアリウム ~個性豊かなペンギン達~」のストーリーまでで想楽は「雨彦がタイムプリディクションの後、劇的に変わりはじめている」という事に気が付いていないのがわかる。

そもそも想楽は誰かを見る際にそんな物差しをもって見る事はしていなかったのでは?と思う方もいるだろうが、これは恐らくタイムプリディクションで「雨彦の気持ちに雨彦自身より先に気が付く」という無二の成功体験があったから、雨彦に対してだけ物差しができてしまったのではと推測される。

ずっとずっと追ってきて隠されてきた狐の真意に、本人にもわかってないところで気が付けた。それを伝えられた。だからなんとなく「雨彦さんはこう」を思うようになってしまった。

多分タイムプリディクションの後、雨彦が以前のままならそれも言い当てられっぱなしになっていたかもしれないのだけど現実はそうでなく自我を手に入れようとどんどん変わっていっている。その一因には確実に想楽がいるのに、想楽自身はそれに気が付いていないというもどかしい状態。

 

「雨彦ならこう思うはず」の予想に対して雨彦が違う行動を取りそれに反応する想楽、という単純な構図だが、

Jet-Black Shadow!!Liveでは「意外だなー」で終わり、

氷上のアクアリウムでは「大丈夫か?」と本人にしてはほぼ初めてなのではというレベルの直球な問いかけに「いきなりどうしたのー?」と珍しく驚いているのがわかる。

そこから今回の七夕LIVEでのあれなんだからそりゃあもう大層びっくりする。

そしてストーリー8であった通り、いよいよ想楽も「雨彦さんが変わっていっている」というのに気が付いたわけだ。

 

 

それにしても「自分の人生に、あまり興味がないのかもしれない」と言っていた男が、

一年近く経って「一度きりの人生を、仲間と共に謳歌する」って短冊に描くの、あまりにも流麗で100点中1000点の答えじゃないですか?すごくないですか?どうやったらそんな言葉思いつくんだ?

「一度きりの人生」で自分の人生がとても大事なことも伝わるし、その大事な人生を「仲間と共に謳歌する」んですよ?アイドルだからユニットだからじゃない、もう想楽とクリスも、他の事務所のみんなも含めて「自分の人生で一緒にいたい仲間」なのも伝わる。すごすぎる。とりあえず1日パック課金してありがとうすごすぎの手紙をしたためよう。

 

 

■Legendersに嵐がくる 金の逆風たる銀の嵐が

ストーリー8、全台詞良すぎて全部スクショしたので画像欄が異様な光景になっているのだが、とにかくここですごく大事な話がたくさん出てくる。

・雨彦は「いつも全力で己と向き合っている古論や北村」が羨ましいのかもしれない

・想楽は雨彦が変化している事に気が付いた

・「結成当初は安定したユニットだったのに今になってバランスが崩れ始めた」

・それでも雨彦は前に進みたい、二人を巻き込んででも進みたい

・「何を今さら。私たちはバディじゃないですか。」

 

「結成当初は安定したユニットだったのに今になってバランスが崩れ始めた」のところで想楽は「普通逆じゃないー?」と言っている。

そう、普通は逆なのだ。SideMにはバランスが崩れた状態でユニットをはじめ、今とてつもない安定を誇っているユニットというのもある。Legendersと対をなす(と私が勝手に思ってる)DRAMATIC STARSなんかが特にそうだ。あそこは誰かさんと誰かさんが初手で殴り合いの喧嘩をしたが今はとてつもない安定を誇っている。その喧嘩をした両名はモバが始まってから一度も両面をしたことが無いんだとか。

 

もしも逆を辿るのだとしたら?

喧嘩から始まり安定を貫くDRAMATIC STARSの対として、安定から始まりついにバランスの傾きが見え始めたLegendersが置かれていたとしたら?

LegendersとDRAMATIC STARSの違いはその社交性にある。DRAMATIC STARSは全力でぶつかれば多少傷をこさえても分かり合えるのを知っているけれど、Legendersの彼らはそもそも争いを避ける。誰かが傷ついてまで自分を通す事をしない優しい人達だったから。

でも今は違う。雨彦は二人を巻き込んででも進もうとしている。自分を優先している。

 

何が言いたいのかというと、残ったLegendersの両面たる雨彦と想楽のイベントでは、かつてのDRAMATIC STARSと逆、喧嘩が到達点の一つになるのではないか…ということで、これもう全部オタクの妄想だから許してくれ…外れても叩かないで…(急に弱気になるオタク)

 

でもちょっと状況証拠があるんですよ。7月のイベント予定見ました?今やってるこのイベントの次。去年やった輝と翼の両面リバイバル。全く今のLegendersと状況が同じ。

 

輝と薫の両面はやってない。こんなん並べられたら「おいお前ら今のうちに覚悟キメといてや」のメッセージがあぶりだしで出て来そうじゃないですか?

実際ヤバそうだな…って防御態勢とっててもこんなんなので全然だめでしたけど。

 

 

とはいえ!ストーリー8見ていただければわかる通り流石全生命体に勝ちたいLegenders、戦る気に満ちている。想楽の少し不穏な発言に対するクリスさんの意気込みがめちゃくちゃ頼もしい。やっぱLegendersのエンジンとフィジカルはクリスさんだなあと思う。いないと船は進まない。

なんかこの空気になっているLegendersをモバで見るのは久しぶりな気がする。ライブでもゲームでも、不敵な笑みと自信に満ちた三人の出す空気が大好きなので嬉しいし、たとえどんな大きな嵐であっても三人なら大丈夫だと、そう思わせてくれる終わり方で本当に良かった。

 

 

短冊に書いた想楽の願いは何だったのか、

残された最後の両面はどのように展開されるのか、

ラソン上位を事務所内で経験していない4人のうち1人が北村想楽である事に何か関係があるのか、

何もわからないけれども、私たちはタイムプリディクションから一年でまたしてもLegendersの大きな潮目に遭遇することになりそうだという事は、確かなんだと思う。

 

それにもしかしたら、もう私たちはその先の景色をもう見ているのかもしれない。Time Before Timeという曲で。Symphonic Braveという曲で。

(全然そうなんなくてもいいけどモバでひと段落した後にサイスタでシンブレイベントやったらすっごい最高大団円になっちゃうなって思った)

 

 

タイムプリディクションの時の衝撃と同じものは二度と味わえないだろうなと思っていたところだったので、はるかに短いストーリーでここまで揺さぶられてしまいもう脳が疲労で心地いいです。やめらんねえ~最高すぎる…ビンゴとかライプロは話短いから大丈夫!はもう昔の話ですね!モバのライターの神髄を見ました。凄まじすぎる。褒めまくって終わりにします。パーチケ爆死したけどその分他のPに雨彦が行き渡っているならそれでいい…!

【ゲームをした】OMORI【続きのみネタバレと考察があるよ】

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(2014年発表のトレーラー。プレイ前に絶対見てほしい)

 

 

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(2020年発表の最終トレーラー。これもプレイ前に見てほしい)

 

 

「OMORI」というゲームの日本語版をプレイした。
とても面白かったのでネタバレせずに、一応これからプレイする可能性がある人に向けては判断材料にしてもらえれば幸い。


1.プレイ前について

■面白い?やったほうが良い?
めちゃくちゃ面白い。
でも絶対にやった方がいい、とはちょっと言いづらい。
ゲーム起動時の注意書きにもある通り、精神的にかなり重みのあるストーリーと自殺などの描写が含まれているというか、それがメインストーリーの大切な軸で容赦なくそこに切り込んでくる。
そういうのに苦手意識があるのであれば素直に手を引いておいたほうが良い。直感は大事。

ただ、OMORIというゲームで描かれているお話は全く他人事ではない。
人間が誰しもぶつかる絶望と、後悔と、逃げ道と自分との葛藤と戦いを描いた作品だ。
その追体験と結末を素晴らしいグラフィック・音楽・ゲーム性すべてで存分に魅せてくれる。怖い思いをするかもしれないけれど、その分エンディングを迎えた時の感覚は一生ものになると思う。
もしも勇気があるのならば、是非やってほしいゲームだと私は思う。

■プレイ時間は?
グッドエンドとバッドエンド実績解除まででおおよそ24時間くらい。思ってるより長いぞ。ラスダンだと思ったら全然そんなことないから気を付けてくれ。

■ネタバレ防止策はどのくらいすべき?
日本語版がリリースされた際も注意喚起が散見されたが、このゲームにおいてはネタバレが非常に致命的になる場面が存在する。
その上現実を見れば今から一年前既に原語である英語版は既にリリースされていて、Youtubeにはエンディングの一連の流れとかが野放図にある状況だ。
一応公式を見ててもそんなに致命的なネタバレはない気がする(全部だめって人にはあるかもしれない)ので、
多分気を付けるべきはネットで検索する時だ。動画は公式トレーラー以外を見ないようにする、Twitterでもネタバレ感想は見ないでおくくらいの注意力で十分楽しめた。
ちなみに攻略Wikiは検索して出てくるヘイグさんというところのが非常に役に立った上にネタバレもほぼなく攻略情報のみを提示してくれるのでめっちゃオススメ。
アンリアルライフの時もお世話になりました…配慮に感謝します。


■ホラーはどのくらい?
個人の耐性にかなり拠ってしまうのと結構独特なので何とも言い難い。
私は和ホラーで家と似た空間から異形が出てきて襲ってくるみたいなのがダメで洋ホラーはシャイニングとかなら一人でも完走できた人間なんだけど、
終盤(キーを集めきった後行くとこ)で一回だけゲーム止めて休憩をはさんだくらいだった。

他ゲーム名を出して恐縮なのだが「ゆめにっき」が大丈夫なら多分大丈夫、だと思う。
よく比較対象にされる傾向があるUndertaleについては共通している点が怖くない要素のところなのであれでビビってる人はかなりの覚悟が必要になると思う。
ネタバレにならない程度が難しいのだが、ジャンプスケア(瞬間でびっくりさせてくる)は体感2割しかも自分から行動しないと殆ど無い状態で、
だいたいがマップが見えて「ウ"ワ"~~~・・・・・・・・ここを今から…歩く…?」というやつだったと思う。じわじわ系というか。
戦い系ホラゲーのようなこちらに危害を加えてきたりなんだりというのはあまりなくて、その代わり主人公として行動を強いられ残忍な未来を予期してしまう時はけっこうあって、それがかなり負担になる人はいると思うというかみんななるわこんなん。
私もけっこうそれでダメージを負った。

あと、これも個人差なんだけど所謂ホラーなシーンを見た後寝ると結構な確率で凝った悪夢を見てしまったので心配な人は昼にやった方が良いと思う。

 


2.ネタバレなし感想

めちゃくちゃ面白かった。正直今年やったゲーム全部当たりだったけど一番よかったかもしれない…

・イラスト枚数ドット絵モンスター絵音楽すべての枚数がえげつない事になっているのが序盤からひしひし伝わってきてて、これは物量とんでもないのでは?とずっと思っていた。
実際クリアした後調べたら隠し要素もアンテみたいな事になっててなるほど~!となった。
モンスターのデザインもなかなか面白くてかわいいのからキモいのまでバリエーション豊かでよかった。お気に入りはフカヒレ

・ストーリーはもう言わずもがな。最初わけもわからないまま放り込まれてゲームに引っ張られていくところから徐々に謎を紐解いていく感覚、動かしている筈の主人公に対して疑念を抱いていくところや
真実が明るみに出ていくところはもう感情が滅茶苦茶になってしまった。

・エンディングが複数分岐で、どのエンディングに対してもそれはそうだね…としか言いようがないのもよかった。

 

 

さて、追記にてネタバレありの感想とか考察とか事前情報としてはノイズになりそうなところを綴っていこうと思う。致命的なネタバレが含まれるため閲覧はグッドエンド・バッドエンド完走後に自己責任でお願いします。あと自分の考察は無根拠なので信用しないように。

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【SideM】タイムプリディクションから考察する「葛之葉家」の外殻について

どうもこんにちは!レジェPの皆さんイベントお疲れさまでした。

前回のブログが限界すぎたのか知らない人にも見てもらえてて嬉しいです。ありがとうございます。おかげで生きています。

 

今回は少し趣向を変えて、そもそも雨彦をああいう人間にした葛之葉家って一体どういう存在なんだ?もしかして悪者の気配なのか?というのを考えた記録を載せようと思います。

※当たり前のようにネタバレがあります。特にタイムプリディクション未読の方は是非一読(多分次の次くらいにアルバム入るかな…)してからご覧いただければと思います。

 

 

 

■葛之葉家の役割

soremosouka.hatenablog.com

 

この記事で葛之葉家と雨彦がどんな家業をしていたのかを考察した。
憶測を極力覗いて言えば葛之葉家は「特殊清掃にプラスして人間のネガティブな感情やら、オカルトチックな案件も家業として掃除している」事がわかっている。

記事内でも話はしたが、葛之葉の家の人たちは人間の汚い部分を直視し続けなければならない状態にある。
特殊清掃業の人でも逃げだしたり離職したりする人たちがいる事は想像に難くないのに、更にオカルト系やら負の感情やらに塗れていたら、普通の人間であればもっと逃げる確率は高くなるだろう。

 

これは掃除をする人間側の視点だが、少し俯瞰した視点で考えるとどうだろう。
「掃除」の仕事はどのような時代であっても必ず必要になる。それを為す人間も、絶やしてはならない。
都度金で雇う事も出来はするだろうが、それを短いスパンで使い潰しては次をあたるというのは非効率だ。精神負荷に耐えられなくなって壊れてしまった人間を増やすのは掃除屋稼業としても本意ではない。

 

となれば、答えはひとつ。
掃除の使命を負った一族の血を絶やすことなく、そしてそこに生まれ落ちた人間を潰れぬように教育し、その任を続けていけるようにしきたりをつくっていく、という事だ。
非常に失礼な言い方をすれば「掃除に特化し、「自分」がある事を知らない人間」を作りだせれば、並の人間にも耐えられないような苦行もこなせるし、精神負荷も薄い、長く使える手足になる、という話なのではないだろうか。


タイムプリディクションのストーリー25で雨彦が放った「自分自身の人生にあまり興味が無い」について、
要は自意識の欠如が凄いことになっている状態なわけだが、何故これが起きたのかを考えた時に一番納得がいくのが上記で述べたいわば「掃除の為の人形」として彼が育てられたから、という推論に至る。


「あまり」と彼はぼかしてはいるが多分実際はあの撮影の合間ではじめて自分に人生がある事に気が付いた可能性も十分あると思っている。
自分の人生という感覚は抜け落ち、ひたすら厳しい修練を続け、与えられた「掃除を行う」という役割を全うしてきた人。
厄介なことに彼らの使命である掃除は内側に閉じきったものではなく、必ず外界とのやり取りが必要になる。
だから彼らは相応のコミュニケーションスキルと、信用に足る人柄も兼ね備えている。そのからっぽの自我まで抉じ開けられない程度に煙に巻く話術も。

Legenders結成5年目にしてこの話がようやく浮かび上がってきたのは、想楽やクリスやプロデューサーと雨彦自身の努力が実を結んだ結果だと思っている。本当に、よくここまで…

 

 

 

■葛之葉家は「悪」なのか?

SideMemoriesで雨彦は明言こそしていないが「人間はひとつしかやりたいことを持てない」という理念が透けて見えた。
これもきっと掃除を役割として叩き込まれてきたからだろう。

Pに「大事なものはいくつあってもいい」と教えられ、アイドルも掃除も両方全力でやると決めた雨彦は、葛之葉家にとってどう映るのかというのが今後の壁になる可能性もあるのでは、という説を別の方がしているのを見てなるほどとも思った。
確かに今まで憶測で話してきた葛之葉家の因習はとてもじゃないが人道的ではない。普通の人間ならつらくて逃げ出すレベルの物事に、辛く思う器官を切除した人間をあてがうというのはどれだけ必要な事だったとしても、軽率に容認されていいものではない。

パブリックイメージとして存在するそういった厳しい一族ならば、対立もするものなのかもしれない。

 

だが葛之葉家は本当に、悪なのだろうか?

 


私たちは葛之葉家の中で雨彦としかしっかりと関われていない。
ゆえに彼を軸に彼を育てた環境を垣間見るしかないわけだが、まず忘れてはいけない事のひとつに「葛之葉雨彦は人間が好き」というのがある。
生まれた時から使命を背負い、見えざるものをその目で捉え、人間の嫌な部分なんて飽きるほど見てきたであろう彼は30になってなお個人という単位を超えて人間そのものを好いている。
これは彼自身の本質もそうだろうが、確実に家族や環境にも起因があると思っている。
要はいい人というのは周りにいい人がいるからいい人になれる、という性善説みたいなもので、
少なくともSideMのストーリーに出てくる雨彦の血縁者であるお父さんと叔母さんは彼がアイドルになる事に反対していた様子はないし、
今も掃除屋との両立に対して何かいさかいがある様子もない。
あと、私はリメンバーショットの事を「彼らの人生を祝福してくれた人たち」の提示だと思っていて、
それが家族によって持ち込まれるかそれ以外かで雨彦と葛之葉家の確執有無がうかがえるのではと考えていた。

 

 

結果としてはこの通り、奈良の実家に帰った叔母さんから小さい頃の写真を貰っている。
さいころの写真があり、それを肴に二人で静かに談笑している光景はつまり、今も昔も雨彦は大切にされていることの表れだ。
そもそも本当に掃除にのみ邁進すべきという思考まであるのなら、雨彦が芸能界に興味を示した際の相談もあんな気軽に持ち掛けなかっただろうし、
少なくとも叔母さんに関してはかなり雨彦に対して親愛を持って接してくれているように見える。(若干怪しい挙動も増刊号でありはしたが)


そしてもう一つ、最初に出されて以来特に触れられていない情報のひとつ、
恒常雑誌「掃除屋稼業 後編」にある「全てを見通し 葛之葉の名と血を守るのは女たちだ」というもの。

これが何を意味するのかがあんまりよくわかっていなかったのだが、葛之葉家が本質的に人間の事が好きと仮定すると一個推論ができる。
葛之葉の家を続け、掃除の出来る人間を輩出する事で何ができるのかというと、無関係な人間たちが「掃除」しなくてすむ状況になる。
閉じた系譜を守り、その一族の中は使命に特化し壊れるはずの器官を取り除いた特別な人間で取り回し、次代へと続けていく。
自分たちが大好きな人間を一人でも多く守り、健やかに過ごせるように。そして使命を背負ってしまった一族はなるべく傷つかぬように、自意識を知らぬ間に取り除かれる。


ここまで考えると、「葛之葉家は掃除を最優先事項に掲げているがゆえの歪みこそあるが、根本的なところは因習にとらわれた人々ではなく、
人間のことを愛してやまない誇り高き一族なのではないか」という結論になった。


以前私はどこかの記事で「雨彦の境遇をかわいそうに思うのはお門違いだ」と言った事がある。
それは雨彦自身が掃除屋稼業に対してもまっすぐ向き合っており、悔いなどを一切見せていない所からも察せられる。
そこに加えてもう一つきっとあるべきなのが、「葛之葉家のしきたりと仕組みを悲観するのも違うのでは」ということ。
誇りと使命を持って自分たちの身を他人の為に捧げる覚悟を持ったひとたちを可哀想だなんて言う資格は、私たちにはきっとない。
その運命からアイドルという世界に偶然飛び出して、想楽やクリスやプロデューサーを通して自分というものを知ってくれた奇跡を祝福するのが私たちの仕事なんじゃないかなとも思う。
アイドルになってくれてありがとう。
今の雨彦なら、きっと掃除もアイドルも、そして自分の人生すらも全部抱えて生きていけると、Pは信じています。

 

■【閑話】雨彦は暁ナハトをどう思っていたのか

「タイムプリディクション ~時空の監視者~」において、クリスと雨彦、想楽が暁ナハトについて話すシーンがある。

クリスは「彼は尊敬している父を亡くして傷つき、人生の歯車が狂ってしまった…私個人としては、彼を悪人とは思えません」と言い、
それに対し雨彦は「…そうかい。」とだけ答えている。

ここに想楽が「雨彦さんは、そうとは思ってないみたいだねー。」と口をはさんで話は転がっていくわけだが、
結局ここで雨彦がナハトの事をどう思っているかについては言及が為されなかった。

で、まあ話の流れから察するにクリスが「悪人とは思えない」に対して想楽の言う「そう思ってない」を重ねれば、
雨彦にとってナハトは少なくとも同意できるような人間では無かった事が窺える。

ただそもそも、何故このシーンで雨彦が明言を避けるような形になったのかが私は気になった。
メタ的な視点だけど、こういうところって意見対立とか自分の思いを重ねて吐露することもできるわけだから、
あえて避けているのは何かありそうだなとも。

ナハトは尊敬している父親をタイムジャッカーに殺された。そのタイミングで足に怪我も負い前線を退いた。
そのタイミングから恐らくタイムワープを何度も繰り返して理人の言う「高潔」からほど遠い本編の性格になり、ディストピア世界の創造までをも目論むようになってしまった。

さっきまで散々話していた葛之葉家の使命は「身を捧げて他人を守ること」だ。ナハトも元々は同じだったと思われるが、
タイムプリディクション本編の彼はそこから行き過ぎた思想になってしまった。
それは使命に盲目になってしまった世界線の雨彦の暗示ともとれる。315プロに入った世界線の雨彦はそうはならないとも思えるがいまいち根拠が薄い。
もしかしたら今後の取っ掛かりは「自分自身の人生」にプラスしてこのあたりになってくるのかもしれないと思った。

 

 

■おわりに

特殊清掃の話が出た折にしんどいなあと思っていたんですが、そもそもSideMはあんまり悪い人がいない世界だったというのを今回痛感しました。葛之葉家は多分そんな褒められたものでないしきたりもあるとは思うけど、本質は悪い人たちではないと私は信じたいです。自分の家を悪く言われるのも雨彦的には本意ではないでしょうし。

何にしても、これからの雨彦とLegendersの道行きを見守る事しかPはできないと思っています。次のオフどこ行ったかちゃんと教えてね!ね!

 

【SideM】葛之葉雨彦は問題児である・中間考査

 

 

soremosouka.hatenablog.com拙ブログにてこんなことを話した覚えがある。

 

問題点1

雨彦は自分がこれからどうすべきなのかを迷っている。

もしかしたら、その迷っている事すらわかっていないかもしれない。

 

問題点2

雨彦は自分の事を大事にしていない。

その事について、想楽とクリスがわだかまりを覚えていることに恐らく気が付いていない。

 

18年当時、葛之葉雨彦には問題が二つあって、とても丁寧なイベントストーリーによる経験と最終的にSideMemoriesを経て、問題点1に対し雨彦は「掃除も、アイドルも、どちらも全力でやる」と決めた。欲というものを得た。

私はこの時らへんで「当てが外れたかな、次の問題はどっちもやるって決めた分葛之葉家との折り合いになるのかな」と思っていた。問題点2に関しては陰陽師以降目立った探りはWODで一度あったくらいだったし。

 


誰が思うだろう。まさかアニバを超えた先でやるなんて。

そんで一発で解決に持っていくなんて。

 

 

※タイムプリディクション ~時空の監視者~のネタバレがあります

※読み終えたばっかりかつ今回のSRを二枚とも未所持の状態なので齟齬があったらすみません

 

 

 

■はじめに
今回の話は「タイムプリディクション ~時空の監視者~」の感想になるが、
あんまりにも話したいことが多すぎるのでここでは「葛之葉雨彦の心の動き」に焦点を絞って記述する。

 

 

■九転直下
私が上述のブログで挙げていたうち、残された雨彦の問題は「雨彦は自分の事を大事にしていない、それを想楽とクリスは気にしている」というものだ。

今回のイベントストーリーの序盤、時計の展示会で予告通り「過去か未来に行けるとしたら?」という話題に対しクリスは「海が生まれた瞬間を見たい」と答えた。本当~にクリスさんだな~!と思った。好きだ…
そして雨彦は意外にも「自分が生きていないくらい先の未来を見たい」と答えた。
クリスはその真意を自分と同じ「未知への探求心」だと喜んでいたが、北村想楽はそうは思わなかった。だからストーリー9で、クリスのいなくなった場で、雨彦に聞いた。

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この場面本当に震えた。

 

これは多分Seasideliveストーリー4のオマージュというか、お返しなんじゃないかと思っている。
あの時想楽は「Beitは家族みたいに仲良しだけど僕たちは全然違う」とだけ言っていたが、内心は恐らく「僕たちはこれでいいの?」とぼんやり思っていたのではないだろうか。
その思いがぼんやりすぎて自分でも掴めないままあの言い回しになったものの、他人の内面を読むのが異常に上手い雨彦によって質問も言葉に出来なかったのに「俺達のこれも信頼だ」と答えをもらった。
今回はその逆で、雨彦自身が隠してしまった思いを想楽が見つけ、雨彦にまっすぐ問いかけてくれたのだ。

ここが本当に想楽の成長が如実に現れていてよかった…誰も傷つけない曖昧な物言いに終始していた想楽がライサムや様々な越境を経て、
相手を思った上で自分の心も乗せたことばを口にできるようになっていったのが結実した一幕だった。
(多分劇中彼が演じたノイの歯に衣着せぬ物言いはこのあたりの表現なのかなとも思っている)

それと、雨彦と想楽はやっぱり似ているなとも思った。他人の気持ちを誰よりも気にしすぎるあまり、自分の内面に対してはいつの間にか他人よりも見通せなくなっている。

そうやって零れた言葉にまっすぐな信頼を向けてくれるクリスがいるからこそ、Legendersは成立しているんだな~とも。

 

この時雨彦は過去のイベントで探られた時同様はぐらかしてしまう。いつもはここで終わっていた。だが今回は違った。

 

 

■三人でたどり着いた問いかけ

ストーリー19、最近増えていた「撮影の間」のシーン。
タイムワープ技術が遠因でおかしくなってしまったナハトに対して「私は彼が悪人だとは思えません」とクリスが言う場面。
ここでいつもの通りでなく少し間が空いて「…そうだな」という台詞になったのはきっと前述の想楽の追及が響いていたからだろう。揺れた雨彦を見逃すはずもなく想楽からまた言われてしまう。
「雨彦さんは、そうとは思ってないみたいだねー」と。


Legendersを雨彦中心に見た時にバランスがいいなと思う点は、クリスが「雨彦の言葉を額面通りに100%信じてくれ」、想楽が「雨彦の言葉を疑ってくれる=言葉の裏の思いを見ようとしてくれる」ところだと思う。
冗談とぼやかしばかりの言葉でもまっすぐに信じてくれる彼と、その靄を切り裂いて真実を見ようとする彼と、
二人が一緒にいなければきっと今回の雨彦の成長には至らなかった。

誰よりも雨彦の側にいて、雨彦の言葉の裏を探ってきた想楽でなければあの言葉は出なかったし、
珍しく言葉に詰まって謝りまでした雨彦を即座に「飄々としたところが雨彦の良いところです!」と褒めてくれたクリスのところは本当によかったし、
撮影に向かう時、一人だけ立ち止まっていた雨彦はとても印象的だった。


■時刻は25時

結論から言えば雨彦は元々自分の思いこそあれど、それが周囲の意見と食い違う場合表に出すという事をしない癖がついていた。
それは彼の生い立ちや生きてきた境遇から自然に身に付いたもので、本人も「自分の思い=自分自身を大事に思わない」事を忘れてしまう程だった。

そんな雨彦に対して想楽とクリスはそれぞれのやり方で言ってくれたのだ。
「もっとあなたの話が聞きたいんだ、もっと自分の事を見てあげて」と。


ストーリー25、クランクアップした後突然雨彦が想楽とクリスに話しかける場面。
「かもしれない」「思ったことはすぐ言った方がいいと思ってね」という言葉からも、そういった表現に不慣れなところが見えてくる。

二人に問われて自分の思いを自分で探った結果、知りたいことがたくさん出てきて、きっとあの海へ行く提案をしてくれたのだろう。
ストーリーの最初で「偶然が重なってオフに一緒に行動することになった」ところの対比としてついに「自発的にオフに一緒に行動する話をした」で締めるの、話が単純にうますぎる。
ビジネスライクで始まった三人の道行きはまたひとつ強固なものになった。多分だけど、今回の話Legenders的にはかなり大掛かりな節目になった気がする。
これからの三人のお仕事はきっともっともっとすごいものになっていくだろう。本当に楽しみ。

数年前一人で泣いてた私、本当に良かったね。お前の見立ては大方間違ってなかったし、
雨彦と想楽とクリスはぜんぶぜんぶ最高の形で解決して強くなってくれたよ。


今回本当に満足度というか、見届けた感がすごい。ほんとに純粋に劇中含めて話がうますぎる。
劇中の方は私が好きな未来SFモチーフがどっさりで最高だったのでそのへんは別で語り倒したいなあと思います。ありがとうございました。

 

ちなみになんで今回中間考査にしたのかというと、彼の話に終わりはないからです。それ以外に意味はありません。人生は永遠に中間。


■追記
パーチケ爆死してクリスさんも予算決めてだめだったので雨彦が箱から出てくるように応援よろしくお願いします

 

■追記①

投稿直後にレポート出して雨彦がくれたPエン二つ割ったら来ました。

 

■追記②

 

担当上位だと最短で来ました。応援ありがとうございました。頑張ってるP全員の元に雨彦が来ますように。

【ゲームをした】Hotline Miami

ゲームに何を求めるかというのは、突き詰めればエンタメに触れる理由にも繋がってくる。
それは作品によってきっと異なるし、人によっても異なる。

 

私がHotlineMiamiというゲームに最初に惹かれたのはかれこれ数年前、
以前も話題に出したゲーム音楽ベスト100+900で聞いた「hydrogen」だった。

ずっと同じ音楽が続くようでそうでない「終わり」のある曲。
不可解なほどビビッドな背景。不自然な傾き。
粗いドットで真上から描かれた建物の中で、顔も声もわからない何者かが一瞬で死体に変わる様がとても鮮烈で、ゲームが下手だという一点のみで手を引いてしまったのはちょっと損だったのかなと今になって思う。


で、この夏になり世情が暗澹たる様相になる中、何か逃避できるもんはないかと思った矢先、唐突にこのゲームの事を思い出して音楽だけ貪っているのは良くないと思い立ちSwitch版を買い、私は1989年のマイアミに足を踏み入れることになった。

 

www.youtube.com※バイオレンス系苦手な方はご注意ください

 

■非日常で、非合法な体験

このゲームで最も心を動かされた時がある。

それは一切止まる事のないドープな音楽と派手なカラーリングとフラッシュをバックに、ある時はバットをある時はナイフを、またある時はマシンガンを使い何度も何度も殺されながらようやく一筆書きですべての人間を殺しきった瞬間、息の詰まるような効果音と共にすべてが終わった事を悟るあの瞬間だ。

 

ひりついた緊張感、ここまで来たなら最後まで行きたいという欲望、ついにできたという達成感は一瞬で霧散し、耳鳴りのような音と夥しい血と死体と血塗れの自分がたった一人残る。

このゲームのすごいところは、ステージをクリアしたところで次のステージには移らない点だ。全員殺しきったポイントでゲーム自体は終わるが、そこから自分が通ってきた時から変わり果てた道を、数えきれない死体と武器の山を踏み越えて戻らねばならない。

その時の虚脱感が本当に独特なのだ。少なくとも私はこういう敵を倒す系統のゲームでここまでおかしな気分になったことが無かったのでびっくりした。HotlineMiamiの前評判からしてもヒャッハー系殺戮だと思っていたから余計に。

伝わりづらい感覚かもしれないが、例えて言うならプラス100だったところがゼロになったというよりもプラス100の幻覚を見ていたが実際はゼロで、終わった瞬間マイナス100になってしまったようなそういう感じだった。実体験が一切ないが、もしかしていわゆるトリップが切れた時ってこういう感覚なのでは?とも思った。

いままで普通だと思っていた高揚がぶつんと途切れて荒涼とした現実を突き付けてくる。目に映るものは淀んで見えるし、派手な音楽ももう聞こえない。広がる死体はどれも汚くて無様だ。一刻も早くこの空間から逃げたい。あのカラフルでハッピーではないが少なくともこんな気持ちにさせられることはない場所に戻りたい。

例えとしてこれもどうかと思うのだけど、クスリを繰り返してしまう人たちの心地を疑似体験できたような気がする。これもとても貴重だった。

 

それから、そもそもが殺人という非合法かつ倫理的にも問題のある基軸だが、固定概念としてありがちな「ボタン一つで人が殺せる!」的な思考には至らない作りなのも上手いなと思った。ボタン一つで確かに敵は簡単に死ぬが、油断した瞬間にこっちも一撃で死ぬ。命の軽さが平等で生き残った上での殲滅が非常に難しいところからも、そういったバイアスがかからないようになっているのは巧身だと思った。

 

■信頼できない現身

何故HotlineMiamiは粗いドットと人ならぬ視界と現実味の無い殺戮を持ってここまでの没入感があるのだろう。

それはプレイヤーと主人公たるJacketのシンクロではなかろうか。

Jacketは喋らない。素性も自ら明かすことなくただただ電話を受け、理由も事情も把握しているのかいないのか、探る様子もなく任務を遂行する。

プレイヤーである私たちは「ゲームを進めるため」という大義名分に則り、Jacketを操作し殺害を行う。

共通するのはどこか他人事になっている点だ。自己意志の欠如とも言うべきか。病院にいる事に気が付くまでは特にそう。

しかも私たちが操作するJacketの視界は本物と幻覚がごちゃまぜになっている。そこにプレイヤーが気が付くとよりJacketを信用できない=自分事として捉えられなくなって、ただ来た電話だけを指針にするしかなくなる。Jacketを信じなくなるほどJacketの精神状況により近づき知らない間にシンクロが増していく。 

でもそれは人物そのものの同一化という現象ではなくて、あくまで精神状況の同化だ。だから私たちは目覚めたJacketが警察署に乗り込んだのがFookerの敵を取りたかったからなのかとかすべてを終わらせた最後に何を思って煙草を取り出したのかとか、そういうところは全然わからないまま終わる。

終わった後にBikerの操作があるせいで対比がより鮮やかになっていくのも上手いなあと思った。Bikerは完全にこちらから独立したキャラクターで、当然のように喋るし自分で考えて行動を起こしているのもJacketとの対比なのかなあと思った。

 

世界観とか演出的な側面の感想はこんな感じ。

 

■高難度のバイオレンス・アクションゲーム

今まで散々言ってきたが私はゲームが苦手だ。特にやることが同時に二つあるゲームが最高に苦手。具体的に言えば「キャラクターを左スティックで動かしながら」「右スティックで視点を動かす」みたいなの。

おかげで正直序盤の方が本当に大変だった。ロックオン機能が無かったら詰んでた。

ただ、さんざん他レビューでも言われている通り、ボタンひとつでリトライできる、戻されるのは1ステージで1ステージはそこまで長ったらしくないので蓋を開けてみれば試行錯誤しながら安全にクリアできるパターンを構築していくパズルのようなシステムだったので、ボタン操作さえ覚えればめちゃくちゃ楽しかった。見つかれば一瞬で死ぬ緊張感もすごかった。

あと、武器も多種多様かつ「銃があればええんや!」とは決してならないバランスがいいなと思った。ステージごとに武器持ち込みができたりマスクで有利不利がありそうだったけどそれが絶対に必須って訳じゃなさそうなのもよかった。だいたいあてずっぽうで武器を持ち込んで失敗した!!って大苦戦するんですがそれもそれで面白かったし。

ドットのはずなのに視認性は全く問題にならなくて、初めて知らない所から撃たれた時もすぐ「ガラス!?」ってなれるのも地味にすごいなと思った。

あと効果音が全てリアリティがあったのと、特に銃声がバカデカだったのがよかった。最初は撃っただけでビビってたのだが、気が付かれるリスクについても説得力は十分だったと思う。

 とはいえ無印についても本当にかろうじてJacket編が楽しめるくらいしかプレイスキルがない状態で続編である2をすべてこなせる自信が全然なくて、事実シーン5あたりで足踏み状態になっている。情報によると超絶広いステージに理不尽な武器固定とかいろいろあるらしくてゲームを楽しむコストが嵩張りすぎているのを感じているのもある。もっとゲームうまくなったら再挑戦したい。

 

ゴア部分については私がそこそこゴアなら耐性がついてきた?のもあるのか、HotlineMiamiの無印についてはそんなに気にはならなかった。血は出るわ首は切れるわ紫色の何かが出てるわ打撲音が妙にそれっぽいとか色々あったけどドットが粗いのもあって超絶苦手!という人以外なら耐えられそうな気がする。トレーラー見て大丈夫そうなら大丈夫だと思います。

 

■ミニマルでエレクトリカルでドープな音楽

本当にBGMがいい。全部いい。タイトル画面の時点で気が狂いそうな配色とぶれまくる文字とともに流れてくるバカンスの海で太陽にじっくり殺されるような気分にさせてくる音楽が流れる。

最初に上げたhydrogenは重要というか「なにかある」時に必ず流れる音楽だし、他の音楽もどれも絶妙なトリップを演出してくれる。「Miami Disco」「Paris」とかも好き。

曲単体でも十分にいいのだが、やはりこれもゲームをやりながら聞くとそうでないのでは全く感じ方が違う。これだけのためにゲームやってもいいと思う。

 

 

次の目標はもう少しゲームうまくなって、2をやる余裕を持つ事です。

みんなも1989年のマイアミで不思議な体験をしよう!

 

【アニメを見た】ODD TAXI オッドタクシー

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アンナチュラルとアンリアルライフを見てもらうやってもらう見返りにオッドタクシーを見た。

感想を送るように言われていたけど、せっかくなのでこっちに書こうと思う。

めちゃくちゃ面白かった。

ネタバレしないように気を付けます。

 

 

物語は最先端の現代東京だ。私たちの世界とはたったひとつしか違いが無い。

この違いについては私でもあれ、と思ったので多分そんなに隠す気はなかった気がする。行方不明の女子高生の話とか全然分かんなかったし。

でも単純にすごく上手な仕掛けだなあと思った。現代の人々の群像劇を描く際、ドラマなどにすると一番困るのが人物区別のしやすさと外見リアリティの天秤だと思っているので、素直にすごい!と思った。

それと、ファンタジックかつキュートなキャラクターたちに仕上がっているおかげで展開されるドラマがえげつないほどリアルでギラギラしてても視聴を止める要因にならなかったのが良かった。あれを人間ドラマでやってたら私は脱落していたと思う。樺沢がyoutuber始めたあたりで。キービジュにもただの動物人間アニメではなさそうな空気があるのがわかるのもよい。

 

群像劇、というのは一際難易度の高い物語の種類だと思うんだけど、オッドタクシーはこの部類を見事に成功させた作品だと思う。アンナチュラルとかMIU404が大好きなオタクなので嫌いなわけが無かった。アンナチュラルとMIU404は正気の状態で感想を綴れないので私の感想が気になった人は適当にツイログでも漁っといてください。

人間一人一人が勝手に動いて、偶然が重なった先に奇跡を起こす。他人同士の言葉のやりとりも単なる情報交換ではなく自然な会話だったり、言葉選びがとにかく丁寧だなあと思った。個人的に田中がやっていた恐らく海外産ゲームアプリの画面に映っていた「※所持されていません!」というメッセージでめちゃくちゃこの作品が好きになった。

 

あと、この作品は芸人さんを多く声優に起用しているんだけど、そこも群像劇としてとてもいい演出だなと思った。

元々私はジブリとかの芸能人声優がわりと好きというかあまり声優然とした声の人ばかりでない作品独特の空気が好きだった。多分ジブリに関してはほぼ全部ファンタジーだからジブリ世界観みたいなのの手助けになってて好きという事だったんだろうけど、オッドタクシーに関しては有象無象のキャラクターたちを群衆の一人として演出する一助になってて、めっちゃよかった。アニメ声にはならず、さりとて個性は残してある塩梅がちょうどよかったし、主演に今をときめく花江夏樹にしておきながらあんなだみ声にするのはすごいな~!と思った。というか最初普通にわからなかった。

 

それからyoutubeにあがっていたオーディオドラマがとてもよかった。本編の間の話などではなく、一切言及のなされなかったアイテムに関する一幕、という体の世界観溶けてる系おまけが私は大好きなのでめちゃくちゃ嬉しかったし楽しかった。

私は本編を最後まで見切った時、群像劇で一区切りついた段階で話を切り上げた方がよかったのでは?とちょっと首をかしげていた。でもその後オーディオドラマを一気に聞いて最後の話でなるほど~!この町ではどたばた群像劇(やわらか表現)がエンドレスって事ね!!と納得した。聞いてない人絶対聞いてほしい。

 

今もうアマゾンプライムにもあるし、youtubeのオーディオドラマもあるのでネタバレ踏まずに見れるうちに見ておいた方が絶対いい作品だなと思いました。わりと世代・趣味嗜好関係なく面白いと思えるアニメだったので是非。

 

【ゲームをした】Return of the Obra Dinn オブラディン号の帰還【考察もあるよ】

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担当アイドルについて考えて勝手に泣いている機会ばかりだったけどここは容量の少ない脳から考えた事を吐き出すブログなので、最近やったゲームの感想を書く。

Return of the Obra Dinnというゲームをやった。めちゃくちゃ面白かった。

 

私は数年前から「みんなで決めるゲーム音楽ベスト~」という企画を不定期に覗いている。

この世にあるゲーム音楽ほぼすべてが対象となり、誰でも参加できる投票企画のためそれはもう古今東西いろいろなところから逸材が飛び出してくる。そこでこのゲームの音楽の一つ「Soldier of the Sea」と出会い、現代のゲームとは一線を画す鮮烈な静止画と重厚な世界観を予想させるシリアスな音楽に興味を惹かれたのがそもそもだった。

 

総評としては、

・難易度が程よく難しくて良かった。言語をググったり調査したりメモしたりと本格的な推理が何度も楽しめて、非常に充実した時間を過ごせた。

・群像劇・ファンタジーの入り混じった現実世界・隙間を埋める想像のどれかが好きならやって損はしない。

・慣れるまで3D酔いが大変だと思う。私はSwitchの本体画面プレイでしたが、煙を追う動作が無くなった二日目からは大丈夫になりました。

 

 

■私が保険調査官だ

物語は動画の通り、1803年にイギリスから出発し喜望峰へ行く途中で消息を絶った「オブラディン号」という商船が4年という歳月を経て突如、生存者ゼロの状態で港に帰還したところから始まる。主人公は保険調査員として、乗船していた人間60人の安否と死因を調べあげるためオブラディン号に乗り込む、というもの。

こういった所謂推理ゲームというのはおおむねヒントがちりばめられていて、それを主人公が「おや、これはおかしいな」とか「これとこれが…」とか勝手にしゃべりだして進展するものも多い。私はよくそれに助けられていたアホなのでわかる。

だがこのゲームの主人公は最初船に乗りつける際水夫に一言二言物申す程度で、ゲームパートでは台詞は絶無だ。同製作者の「Papers,Please」では多少人柄が窺える台詞が点在していたのもあるが、本当に喋らない。 

つまりこれ、主人公とプレイヤーの同化率がものすごく高いのだ。主人公が勝手に考えたり歩き出したり手記を埋めたりする事は一切なく、すべての行動と思考をプレイヤーに委ねている。このゲームにおける没入感の高さはここに起因する。

もちろんメメント・モーテム(動画で出てくる髑髏の懐中時計のこと)も推理が合ってた時のドゥン!も勝手に内容が書き足されていくヤバい手記もオブラディン号が出会ったあんな生き物やこんな生き物も私たちの世界には存在しないはずだが、そんなファンタジー要素を包んでなお、ひたすら終わった出来事に干渉する事すらできずに追憶をし続ける事であの世界に夢中になれる。これは手放しですごいなあと思った。

 

■誰も助けてくれない

まあその、物事には裏表があって、実際上述した通り主人公は水夫をほっぽって時間無制限の死体調査ができる。これが何を意味するかというと、助け船がないのだ。

いやもちろん救済措置はある。不思議な力で「写真と人物名、死因、他殺の場合は犯人」を三名分正しく埋めると合ってるよ、という返事が返ってきてそこのメモ書きが手記に実際書き写されていくものだ。

でもオブラディン号に乗船していた人は全部で60人だ。それも船長や専用の制服を着ている人、一人しかいない役職の人たちなんて半分以下で、あてずっぽうに入れるにしてもそもそも最初の方はアタリすらつかない。総当たり戦が選択肢から零れ落ちるくらいの物量なのだ。

推理系ゲームでいつもあまり考えられず、選択肢総当たりをよくやっていた私はもう見事なくらいの大苦戦を強いられた。三日目にしてノートとペンで必死にメモしだしてやっと推理が軌道に乗ったくらいだ。

加えてゲームの方では「何が」推理の材料になるのかを詳細に明示してくれない。つまりそれはメメント・モーテムによる死の瞬間の追憶だけでなく、現実世界のとある部屋にあるものだったり、とある国籍の民族はこういった外見特徴がある、という知識が必要になる事を事前に知らせてはくれないのだ。

これは私がゲームをする上で想像力が足りなかったのも一因としてあるが、まさか素面での国籍や民族知識などが必要になるとは想像もできなかった。なんかこう、馬鹿専用チュートリアルみたいなのがあればよかった気もするけど、それに当て嵌まる人がいっぱいいたわけでもないのでやっぱりできるところから埋めていく基本を遂行する力と、それに耐えられずに答えを探してしまう根気の無さのせめぎ合いに負けた私が悪いような気がしてきた。

 

■没入感を彩るBGM・音

メメント・モーテムによる死の瞬間への来訪は、二度目以降時間無制限で行える。この時調査を飽きることなく実施できる要因にBGMがあると思っている。目立ち過ぎず、さりとて存在感はしっかりしていて、曲の途中の無音になる部分に強い「世界観」の息吹を感じさせるような。サントラ買いました。

静かだが破滅を予期させる音楽の元、ただひとり靴音を響かせその瞬間を訪れる体験はとても鮮烈に記憶に残る。

 

そして音といえば、死の瞬間の再生時に流れる肉声でのやりとりだ。これは日本語ローカライズ版でもそのままの言語で、台詞のみ日本語テキストで綴られている。

最初は何故…聞き取りもできないし聞き分けもできない…と思っていたのだがこれも推理の材料だったので、すべて日本語ボイスにしてしまったら大切なヒントが隠れてしまう。むしろローカライズ周りを担当した方々は本当に丁寧な仕事をしていたと思う。

 

 

■君の手で確かめろ

前述した通りこのゲームにはほぼ確実にノートとメモが必要になる。

それはゲーム内の手記には選択肢で選べるもの以外書き込むことができず、追想した場面に「いた人間」は記録されるが「この人がどこで何をしていたか」は一切記録されないからだ。それがおおよそ60人分。これを全て記憶できるのは多分頭にパソコンが入ってる人だけなので、何かしらの手段で残さないといけない。

しかもこのゲームはそもそも死体を発見してその死の瞬間を追想していく流れになるため、一通り死体を見つけていく順番はオブラディン号の物語とまるで符合しない。

全ての死体を確認し終えた後、水夫に呼び止められてあなたはハッとするだろう。何もわからなすぎて。

この船の辿った物語は人ひとりにスポットを当てていったり、手記の順番通りに追想をしたりを繰り返しメモをとりまくるうちにようやく輪郭が見えてくる。

だが60人全員の安否と名前を当てても全貌がゲーム内に明示される事はない。結局のところ死体の死の瞬間は全てが一続きではないため、空白の部分がどうしてもある。そういったところをきっちり1から100まで提示しないのを不服に思う人は、多分このゲームの顧客ではないと思う。

目に映る記憶はどれも群像劇として非常に優秀な出来で、その時まで様々な人生を歩んできた多国籍の人間たちが己の考えのもとに行動をしているのが重なりあった様は独特の美しさとカタルシスがあり、真相を究明したいという心への火を放つ。

良くも悪くも人間味に溢れる彼らが何を畏れ、何を想い、何故殺し、殺されたのか。残された手記まで巻き込んで、オブラディン号の物語に思いを馳せる。この時間はとても充実していた。本当に楽しかった。

 

 

 

 

で、取引の章まで読み切った後もちもち調べなおしたりネットにある考察読んだりなんだりしたので、その記録を残しておきたい。ネタバレなのでゲームやりたい人はクリアしてから見てね。

 

 

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