水底ガムシロップ

世の中わかんないことばっかりだ

【ゲームをした】Hotline Miami

ゲームに何を求めるかというのは、突き詰めればエンタメに触れる理由にも繋がってくる。
それは作品によってきっと異なるし、人によっても異なる。

 

私がHotlineMiamiというゲームに最初に惹かれたのはかれこれ数年前、
以前も話題に出したゲーム音楽ベスト100+900で聞いた「hydrogen」だった。

ずっと同じ音楽が続くようでそうでない「終わり」のある曲。
不可解なほどビビッドな背景。不自然な傾き。
粗いドットで真上から描かれた建物の中で、顔も声もわからない何者かが一瞬で死体に変わる様がとても鮮烈で、ゲームが下手だという一点のみで手を引いてしまったのはちょっと損だったのかなと今になって思う。


で、この夏になり世情が暗澹たる様相になる中、何か逃避できるもんはないかと思った矢先、唐突にこのゲームの事を思い出して音楽だけ貪っているのは良くないと思い立ちSwitch版を買い、私は1989年のマイアミに足を踏み入れることになった。

 

www.youtube.com※バイオレンス系苦手な方はご注意ください

 

■非日常で、非合法な体験

このゲームで最も心を動かされた時がある。

それは一切止まる事のないドープな音楽と派手なカラーリングとフラッシュをバックに、ある時はバットをある時はナイフを、またある時はマシンガンを使い何度も何度も殺されながらようやく一筆書きですべての人間を殺しきった瞬間、息の詰まるような効果音と共にすべてが終わった事を悟るあの瞬間だ。

 

ひりついた緊張感、ここまで来たなら最後まで行きたいという欲望、ついにできたという達成感は一瞬で霧散し、耳鳴りのような音と夥しい血と死体と血塗れの自分がたった一人残る。

このゲームのすごいところは、ステージをクリアしたところで次のステージには移らない点だ。全員殺しきったポイントでゲーム自体は終わるが、そこから自分が通ってきた時から変わり果てた道を、数えきれない死体と武器の山を踏み越えて戻らねばならない。

その時の虚脱感が本当に独特なのだ。少なくとも私はこういう敵を倒す系統のゲームでここまでおかしな気分になったことが無かったのでびっくりした。HotlineMiamiの前評判からしてもヒャッハー系殺戮だと思っていたから余計に。

伝わりづらい感覚かもしれないが、例えて言うならプラス100だったところがゼロになったというよりもプラス100の幻覚を見ていたが実際はゼロで、終わった瞬間マイナス100になってしまったようなそういう感じだった。実体験が一切ないが、もしかしていわゆるトリップが切れた時ってこういう感覚なのでは?とも思った。

いままで普通だと思っていた高揚がぶつんと途切れて荒涼とした現実を突き付けてくる。目に映るものは淀んで見えるし、派手な音楽ももう聞こえない。広がる死体はどれも汚くて無様だ。一刻も早くこの空間から逃げたい。あのカラフルでハッピーではないが少なくともこんな気持ちにさせられることはない場所に戻りたい。

例えとしてこれもどうかと思うのだけど、クスリを繰り返してしまう人たちの心地を疑似体験できたような気がする。これもとても貴重だった。

 

それから、そもそもが殺人という非合法かつ倫理的にも問題のある基軸だが、固定概念としてありがちな「ボタン一つで人が殺せる!」的な思考には至らない作りなのも上手いなと思った。ボタン一つで確かに敵は簡単に死ぬが、油断した瞬間にこっちも一撃で死ぬ。命の軽さが平等で生き残った上での殲滅が非常に難しいところからも、そういったバイアスがかからないようになっているのは巧身だと思った。

 

■信頼できない現身

何故HotlineMiamiは粗いドットと人ならぬ視界と現実味の無い殺戮を持ってここまでの没入感があるのだろう。

それはプレイヤーと主人公たるJacketのシンクロではなかろうか。

Jacketは喋らない。素性も自ら明かすことなくただただ電話を受け、理由も事情も把握しているのかいないのか、探る様子もなく任務を遂行する。

プレイヤーである私たちは「ゲームを進めるため」という大義名分に則り、Jacketを操作し殺害を行う。

共通するのはどこか他人事になっている点だ。自己意志の欠如とも言うべきか。病院にいる事に気が付くまでは特にそう。

しかも私たちが操作するJacketの視界は本物と幻覚がごちゃまぜになっている。そこにプレイヤーが気が付くとよりJacketを信用できない=自分事として捉えられなくなって、ただ来た電話だけを指針にするしかなくなる。Jacketを信じなくなるほどJacketの精神状況により近づき知らない間にシンクロが増していく。 

でもそれは人物そのものの同一化という現象ではなくて、あくまで精神状況の同化だ。だから私たちは目覚めたJacketが警察署に乗り込んだのがFookerの敵を取りたかったからなのかとかすべてを終わらせた最後に何を思って煙草を取り出したのかとか、そういうところは全然わからないまま終わる。

終わった後にBikerの操作があるせいで対比がより鮮やかになっていくのも上手いなあと思った。Bikerは完全にこちらから独立したキャラクターで、当然のように喋るし自分で考えて行動を起こしているのもJacketとの対比なのかなあと思った。

 

世界観とか演出的な側面の感想はこんな感じ。

 

■高難度のバイオレンス・アクションゲーム

今まで散々言ってきたが私はゲームが苦手だ。特にやることが同時に二つあるゲームが最高に苦手。具体的に言えば「キャラクターを左スティックで動かしながら」「右スティックで視点を動かす」みたいなの。

おかげで正直序盤の方が本当に大変だった。ロックオン機能が無かったら詰んでた。

ただ、さんざん他レビューでも言われている通り、ボタンひとつでリトライできる、戻されるのは1ステージで1ステージはそこまで長ったらしくないので蓋を開けてみれば試行錯誤しながら安全にクリアできるパターンを構築していくパズルのようなシステムだったので、ボタン操作さえ覚えればめちゃくちゃ楽しかった。見つかれば一瞬で死ぬ緊張感もすごかった。

あと、武器も多種多様かつ「銃があればええんや!」とは決してならないバランスがいいなと思った。ステージごとに武器持ち込みができたりマスクで有利不利がありそうだったけどそれが絶対に必須って訳じゃなさそうなのもよかった。だいたいあてずっぽうで武器を持ち込んで失敗した!!って大苦戦するんですがそれもそれで面白かったし。

ドットのはずなのに視認性は全く問題にならなくて、初めて知らない所から撃たれた時もすぐ「ガラス!?」ってなれるのも地味にすごいなと思った。

あと効果音が全てリアリティがあったのと、特に銃声がバカデカだったのがよかった。最初は撃っただけでビビってたのだが、気が付かれるリスクについても説得力は十分だったと思う。

 とはいえ無印についても本当にかろうじてJacket編が楽しめるくらいしかプレイスキルがない状態で続編である2をすべてこなせる自信が全然なくて、事実シーン5あたりで足踏み状態になっている。情報によると超絶広いステージに理不尽な武器固定とかいろいろあるらしくてゲームを楽しむコストが嵩張りすぎているのを感じているのもある。もっとゲームうまくなったら再挑戦したい。

 

ゴア部分については私がそこそこゴアなら耐性がついてきた?のもあるのか、HotlineMiamiの無印についてはそんなに気にはならなかった。血は出るわ首は切れるわ紫色の何かが出てるわ打撲音が妙にそれっぽいとか色々あったけどドットが粗いのもあって超絶苦手!という人以外なら耐えられそうな気がする。トレーラー見て大丈夫そうなら大丈夫だと思います。

 

■ミニマルでエレクトリカルでドープな音楽

本当にBGMがいい。全部いい。タイトル画面の時点で気が狂いそうな配色とぶれまくる文字とともに流れてくるバカンスの海で太陽にじっくり殺されるような気分にさせてくる音楽が流れる。

最初に上げたhydrogenは重要というか「なにかある」時に必ず流れる音楽だし、他の音楽もどれも絶妙なトリップを演出してくれる。「Miami Disco」「Paris」とかも好き。

曲単体でも十分にいいのだが、やはりこれもゲームをやりながら聞くとそうでないのでは全く感じ方が違う。これだけのためにゲームやってもいいと思う。

 

 

次の目標はもう少しゲームうまくなって、2をやる余裕を持つ事です。

みんなも1989年のマイアミで不思議な体験をしよう!