【映画を見た】シャイニング
なんと、自称ホラー苦手である。
自称というのは最近普通に海外ホラーなら一人で完走できてしまっていて段々自信が無くなってきたからだ。
人生最初のホラー映画がほぼ無理矢理見せられた「エクソシスト」だったのが間違っていた気しかしないのだが、とにかくホラーというジャンルは避けて通ってきた人生だった。
だが人間年を取ると痛覚も鈍る。それと知識も得る。
ホラーと大別されるジャンルの中にも種々様々あり、「怖そうだけど見てみたい」と思うような作品も出てきた。
おまけにこの動画配信大発達時代だ。ピカピカに明るい昼間・画面を隠せるぬいぐるみ・いつでも止められる一時停止ボタン・喋らずに実況して気を紛らわせるTwitter。時代はホラー苦手を克服せよと仰せだ。これを逃す手はない。ので見た。
ミーム汚染されているジャックニコルソンの絵面しか知らない状態で鑑賞したのだが、非常に面白かった。そんなの当たり前なのだが。
そも、この映画に出てくるホラー要素というのはなんやかんやあって人を狂気に誘ってくるオーバールック・ホテルそのものだ。
そこにあてられたのをきっかけに人間から狂気の塊へ変貌していくジャックと、ホテルとジャック・生まれ持ったシャイニングに翻弄されるダニーと周り全部から追い込まれるウェンディの様子は噂通りおぞましい程の不安と恐怖に満ちていた。
元々ジャックがあまり人間として出来ているタイプではない、という設定と描写を入れてきているのがスタンリー・キューブリックだな~!と思った。時計じかけのオレンジの時も思ったのだがこの人もしかして聖人君子なんてこの世には存在しないしみんな悪い側面を持って行動してるからこんな目に遭うんだよ!というスタンスなのかなあとも思った。
良い人が狂気に堕ちていくというのはギャップがあって見ごたえがあるけれど、
元々そんなに良い人じゃない人が最悪の狂気に染まっていくのは因果応報の観点からしてもリアリティがあったし、思考がネガティブな分狂気が回るのが早いんだろうというのも説得力があった。
前述の通りあまり海外ホラーには触れてこなかったのだが、この映画のホラー演出が静的というか、「カメラを回したらいる」みたいなのがあったのも印象的だった。こういうのは日本のホラー特有なのかと思っていたし、もっとドカー!バキー!キャー!みたいなのを想像していたので普通に怖かった。その静的な恐怖の与え方とジャックがウェンディたちを襲ってくるシーンはドカバキキャーどころではなく、その静と動の緩急の付け方も非常に上手いと思った。
この映画がホラーにもかかわらず様々な人に世代を超えて評価されるのは、きっとホテルのホラー要素だけでなく、そこにあてられた生身の人間が自ら狂気に足を踏み入れ、同じ人間を恐怖に陥れるサスペンスとしての側面があるからなのではないかと思う。
得体のしれないものというのは概して人間怖がるが、そこに影響されて変わってしまった人間は、幽霊などとは全く違うタイプの恐怖になる。
更にホテルの意志については謎めいた描写やファンタジーもかくやというシーンも多くあり、スタンリーお得意の絵画のような構図と美術による絵空事感が強調されることで、恐怖よりも「どういうこと?」「これからどうなるの?」の感情を強くすることができ、結果画面をちゃんと見て映画を完走することができる仕組みになっている。
ホラーの一番の難点は見たくないシーンを見ずにいる事で話の流れがわからなくなったりして結果つまんないという感想になる事だと思うので、そこが上手く対処されているというか、「怖いけど見てしまう」ものに仕上げたのは本当にすごいと思った。
結局最後の写真がなんだったのかとか、双子がなんだったのかとか、わからない事も多いエンディングだったけれど、私は全部解明してたらつまんないよね!というタイプなので全然気にならなかった。ウェンディとダニーが生き残ってなかったら多分こんなにポジティブな感想になっていないけど。
ネットでミーム汚染されていた例のシーンは映画をちゃんと見ていれば普通にめちゃくちゃ怖くて笑ってられる瞬間なんてなかったので、そのへんは安心してほしい。冷やかし目的で見ると返り討ちに遭う楽しい映画なのでみんな見よう!