水底ガムシロップ

世の中わかんないことばっかりだ

【舞台を見た】デストルドー9

全公演終了でネタバレ解禁と聞いたので、ふせったーに書いてたものも含めてこっちに書いていく。

 

珍しく舞台演劇を鑑賞してきた。

9/19~23まで上演されていた「デストルドー9」という作品だ。

 

・公式

http://destrudo9.com/?_fsi=0T9qQMCb

 

別に声優オタクでは一切ないのだが偶然某声優さんのツイッターで回ってきた情報を見てサイトにとんだらこれで、

キービジュアルの時点でいやこれ絶対好きじゃないですか~!と思っていた。何も設定とか見てないのに。

ちなみにTwitterでいつも好き放題好きなものを書きなぐっていたせいでフォロワーにも絶対好きそう~!!!って言われてた。

 

声優さんたちの舞台というのは経験がなく、応援してる人間がいる事は認知してほしいが絶対に個人認識されたくないクソ厄介オタクだったので相当迷った末、そういう方面が大丈夫そうなフォロワーを二名ほど巻き込んで絶望編・希望編ともに一度ずつ鑑賞しました。その節はありがとうございました。

 

感想はまとめると下記。

・人の心がなさすぎる!最高!

・円盤絶対出てほしい

 

【考えた事】(考察までいかないので…)


■タイトルの「希望」「絶望」は誰の視点なのか?
デストルドーと小早川幾実?

 

希望編を見て「いや希望って何」と絶望しその後絶望編を見て「いや絶望とは!?」となったんですよね私は。

タイトルはデストルドー9だしやっぱりデストルドー自身(とそれを信奉する小早川幾実)の視点なのでは…と。


希望編、最後の戦いの結果は明示されていないけど
・台本の「光はない」
・小早川幾実はデストルドーの復活とそれによる虐殺を望んでいる
・Sクラスのあの時点での心の一本化は恐怖政治により最弱レベルに低下している
・小早川幾実がエンケパロスであり、抜ければ殆ど無力化できること
・そもそも小早川幾実がデストルドー側だということを知った瞬間、彼を唯一の依存先にしていた野一色頼の心は完全に砕けてしまうであろうこと

 

を考慮するとデストルドーとの戦いには確実に負ける。
負ければデストルドーは再び世に放たれる。=デストルドーにとっての「希望」
かな~と。

 

絶望編はその真逆で自分はまた動けなくなるしその間に殺される手筈を整えられればおしまい。=デストルドーにとっての「絶望」なのかな~

 

 

■野一色頼の絶望はシナリオ通りだった

上記で言った通り小早川幾実の目的はデストルドーを解放することだ。

その為の第一条件は何か?Eクラスを殺し、かつ最後の希望となったSクラスを何らかの方法で無力化しデストルドーを勝たせることである。

Sクラスの無力化または殺害は何を以てなせるか?もっとも簡単なのは野一色頼の死だ。

野一色頼を死に追いやるためには何が必要か。「友達がいないと生きられない」彼を孤立させ、自分しか依存先をなくした後その依存先としての存在を叩き切ればよい。

頼がそこで死ななかったとしてもカルディアは無力化され、統率の先を失ったガラテアは最大出力ではなくなる。この時点でデストルドーは確実に勝てる。

 

では野一色頼を孤立させるためには?彼の親友である原之園准と、五十嵐遼を退場させるのが手っ取り早い。B&Eだけでは絶対の死にはならずEクラスの策に乗る可能性が出てくるので、ちゃんと人間としての死を与える必要がある。

 

ここまでが劇中から読み取れる話。

で、必要になってくるのが原之園准と五十嵐遼をいかに自発的に退場させるかの仕込みだ。多分これを小早川幾実は劇中で描かれていない行間で行っていたと思う。そうとしか思えない。

だって都合が良すぎる。あの状況下でSクラスの准と遼以外がああいう行動に出ない保証は全くない。誰がああなってもおかしくなかった。小早川幾実がその1,2番目が偶然あの二人になる事をただ祈るだけの人間だとは到底思えない。

 

と思っていたら、終演の日付近に突然、彼の弟である小早川綜真のツイッターアカウントらしきものが出てきた。

 

 

 

 

(このアカウント、多分公式がひそかに用意していたものだろうけど小早川綜真の人となりがとても丁寧に描かれていてリアリティもあって素晴らしいので是非覗いてみてほしい。私はこういう現実と作品の境界が溶けているような感じのが大好きです)

 

このツイートの「アイツ」が幾実の事だとすると、恐らく最初から小早川幾実が准と遼の二人の決壊を狙っていたのでは、という想像がつく。

だから多分、劇中の行間で、頼に見えない所で、彼ら二人を精神的に一番二番に音をあげるようにうまく追い詰めるなどしていたのではないかと。

ひど、ひどくないですか!人の心がない…

 

加えて小早川幾実の計画はSクラスという「あまり自分でものを考えた事のないいい子ちゃんたち」の寄せ集めでなければ完遂できなかったものだと思う。

多分この編成については紙枝と交渉してやったんだろう。周到すぎる。

 

野一色頼は純粋で誰をも信じてしまう幸せな人生だったが故に、小早川幾実の悪辣なシナリオ通りに動く人形となり、壊されてしまったのだ。

 

 


【感想・舞台装置と環境関連】

・全体的に台本書いた人は人の心がありませんね!?素晴らしかったです。

小林靖子とか虚淵玄とか末満健一とかあのあたりとまた違う方向性というか、地獄も十人十色というやつですね。ひどい!是非これからのご活躍をお祈りしております。

 

・絶望編と希望編という二編を設けて、安直に想像されるマルチエンディング方式にしなかったのは非常に先進的だった。終わった後「ポケモンの赤緑みたいなテンションなのか」とか疑いましたが上で考えた通りちゃんと意味あったのですごい。

 

・事前の情報提示というか、世界観提示のやり方がすごく新鮮だった。

私は最近の舞台演劇を殆ど知らないのでアレなんですが、アプリとツイッターで事前に世界観を小出しにするのってよくあるんですか?情報の出し方が「知らなくても楽しめるけど、知るとより一層世界観に深入りできる」仕組みでうまいな~!!と素直に感心しましたしその手の込みようがすごい。すごいしか言ってないな。

 

・蝶のサス!綺麗でした!

開演前の大きめなやつ(小さい蝶がたくさんいるのも劇中にあった気がするんだけど幻覚かもしれない)が席から見るとエンジェルズラダーみたいでとてもきれいで、床を見ると蝶がいる、というのが幻想的でよかった。開演前ちょいちょいスモーク焚いてたので光の筋も見えやすくてよかった!

舞台上で二つ時間軸を行き来する際の照明の当たり方とか、OPの非現実感というか二次元感も照明がすごく貢献しててもし円盤とかで見れるならそこ中心にもう一回見たい…

 

・劇伴がオリジナルってすごくないですか!?

学生時代一応舞台音響かじってて、プロの演劇とかの劇伴とか参考にしてた時期もあったんですけどオリジナルはあまり聞いたことなかったので仰け反りました。でもここまで作り込まれた世界観なら既存のものでは不足にもなるなあと。サントラも買いました。

 

 

【キャラクターなどについて】

・全体的に演技のレベル高くないですか?全員すごかったです。何も憂えるところなく楽しめました。

・キャラクターも当初はこんなん覚えられるか~?と思っていましたがちゃんと覚えられるレベルに濃かったです。しかも無理ない組み上げ方だったので尚更すごい。

 

あとはピックアップできる分だけ…超長い…

 

・束田唯にあまり同情できない仕掛けというか事情がいいなって思った。

彼女を一夜の過ちして子供できちゃって拒絶したら自殺しましたは流石に応える。

それは確かに同情できない。でも私は個人的にその「どうしようもなく自分の過ちのせい」という要素があるのはすごく彼の人間らしさになっていて、逆に感情移入できるなと思った。

 

他作品の名前出すのもアレかなと思うんだけど、仮面ライダーアマゾンズSeason2に登場する主人公千翼はおおよそ唯と同じ「お前が生まれたせいで大勢の人間が死んだ」逆なろう系小説タイプなのだが、千翼はほんとに何もしてないのに世界から死を望まれているのだ。生きてるだけで災害なのだ。

「生きていちゃダメなのか?」と問うても脚本家に「ダメよ」と叩き斬られる始末だ。

 

私はこの千翼の状況があまりにもあんまりすぎて、逆に感情移入がうまくできなかった。同じ人間ではなかったのも一理あるにはあったが、「そこまで何もしてないのにそんなデカい罪を着せられるのは分不相応すぎる」という想いが一番強かった。

 

だから個人的に束田唯には感情移入というよりは「ああ、この人も普通の過ちを犯した上で、その上で世界の敵として磔にされているんだ」と安心して見れた節があった。

千影さんの話は確かに擁護のしようがない。でもその罪こそが彼を同じ人間としてギリギリあの世界に留めてくれていたのだと思う。

生まれてこなければよかったのか、という彼の問いの答えは希望編では閉ざされ、絶望編では明かされないまま。でもきっと、どちらにしても、「そんなことないよ」と言ってくれる人はいると信じている。

 

・野一色頼については結局推しというか、一番好きですね…

最も罪なき汚れなき男として、染められるのではなく白いままこなごなに砕けていく様が見ていて本当につらかった。し、彼に唯一あった罪が「無知」であった事も辛さに拍車をかけていた。

教官の暴力による統治と後半の彼による恐怖統治の対比、

「友達を殺すことになっても?」の「友達」は唯だけでなく、准と遼の事でもあった事、

頼の周りには様々な伏線と対比があって、どれも二回見るとだいたい思い出す仕掛けになっているのでうまいなあと思った。

 

野一色頼は希望編、絶望編どちらにしてもひどく残酷な結末が待っている。

希望編は先述した通りだが、絶望編で彼は准と遼を失って(しかも自分が殺した認識でいる)そのままのうのうと生き延びてしまっているのだ。

もちろんカルディアとしての使命感は強くあったと思うので協力して、という流れになった際デストルドーを倒すまではギリギリ生き残ってくれるだろう。

だがその後、幾実の謀略に操られるまま動いていた自分を彼が許すだろうか。

 

多分そこは、ただ一人残った「友達」である束田唯の出番だと思うので、ほんとにがんばって説得してほしい。

あと私は終演後に演者の汐谷さんがツイートしていた「生きて」の呼びかけがとても救いになったと思っている。

ほんとに、あそこからはきっと難しいと思うけど、生きてほしい…

 

 

あと汐谷さん、前々から思っていたけど「脆くて儚い不安定な青少年」の演技がうますぎる…
某Mで演じている北村は少しずつうすい折り目がついていた感じだったけど、
頼くんはまっさらだったところに戻せない折れ目がばっきりついた感じで
見ててほんとうにつらかった…すごい演技力だった…

 

 

・小早川幾実、諸悪の根源…

でも、彼が母親への愛情ひとつであそこまで行動を起こしたというのはやっぱり責めきれない部分もあって、何回か言うと思うけどこの話に出てくる人たちはある程度間が悪かったようにも思う。

周到に計画を立てて、大好きなものを大好きなままで永久のものとするその姿勢はほんものだ。

でもやっぱり頼、准、遼とSクラスを手のひらで転がしてたのはて、テメー…となる。

あと、ひかりさんの件…ガラテアの外見て何かステータスに影響するんだっけ?何故幾実がわざわざ好きでもないひかりさんを抱いてまでアネモネの外見を作ったのかがよくわからなかったんですが、

もしお母さんにちょっとでも似てるのがよかったからとかだったらドン引きする(褒め)

小早川幾実という人間の組み上げ方の上手さもさることながら、そのキャラクターを見事な説得力で表現してきた演者さんもすごい。

 

・小早川綜真は序盤と終盤での印象が180度違うというか、こいつかわいいな…て思わせるのがすごくうまかった。

兄の謀略に気が付いているけど下手な事を言えば兄に勘付かれる、情報と責任感の狭間で揺れる高校生。彼は母親だけでなく、兄に対してもさみしい思いがあって、根がとてもやさしい子なのだというのも劇中だけでちゃんと伝わってきた。ただそれを表に出す方法がかなり下手なだけで。

Twitterで水族館のツイートを引用してはかわいい顔文字だけつけていたのが印象的だった。本当、普通の高校生だったのに…という想いすら芽生える。

 

・二階堂優、こういう道化系軽い男に弱い。

変態ぶりは日を追うにつれ激化していたらしいと聞いていたが彼の真価はやはりその後、みんなが絶望に打ちひしがれている時の慈愛の視線だろう。

彼は親愛の情を何よりも大切にしている。他人への慈しみを何よりの糧にしている。だからそれを奪われた時には誰より激昂するし、死への導線を示して迷うEクラスの道標をつくる。

詐欺師としての言葉巧みさも、決してただのいいひとで終わらせない部分も、とても人間味が溢れていて好きになってしまった。

 

・原之園准と五十嵐遼、頼の親友である二人は頼の傀儡化の為の犠牲になってしまった。

でもあの過酷な環境の中、頼がしばらく平静を保てていたのも、ある程度空気が柔らかであったのもきっとこの二人が頼や唯に気さくに話かけてくれていたからなんだと思う。

中でも遼はSクラスでは数少ない「自分で考える事」ができた人間だった。うまくいけば幾実の計画を頓挫できたかもしれなかったが、やはりそこは幾実の方が一枚上手というか、頼を自分に依存させるのが早かったというべきか。活路があったかもしれないというのが終わった後わかるのも憎い仕掛けだった。どこかの世界線ではちゃんと幸せにやっていてほしい。

 

・澤山要と森雄吾、名コンビでしたね…こういう犬猿コンビはいつ何時でもよい。

要くんのようなぶりっこは若干敬遠される節が往々にしてあると思うが、そこを最初の脱落者としたのもなんというかキャラクターに感情を寄せる理由付けがうまいな~と思った。そこから引っ張られて森くんが動き出すのがまたよい。

きっと脱落するのが森くんだったとしても、要くんはきっと森くんと同じくらい親身になってくれていたと思う。

 

・守野先生、先生としての葛藤と人類の敵たる唯に対する冷徹な態度の二律背反で一番苦しめられた人で、見ていて本当につらかった。

唯を殺すことを決めたはずだったのに、生徒を守る先生として、あれだけ短い時間でありながらも役割を全うするために「君は悪くない、だって君は知らなかった」「本当に責められるべきは大人だ」と言ってくれた。

このシーンは台詞だけ見れば掌返しもいいところなのだが、そこに込められた半端じゃない感情によって恐ろしい説得力がある。ここから自殺のくだりまではめちゃくちゃ人間ならではの動きというか、理屈では証明できないもので溢れていてとても好きだった。

 

 

【そのほか】

・円盤化、しないのでしょうか…私、しばりつけてでもあれを見せたいフォロワーがけっこういるんですけど…絶対今のご時世「そういう」層にウケると思うんですよ…少なくとも私にはクリーンヒットもいいところだったので出たら絶対に買います。アンケートも書きましたが是非ご検討いただければ!!!見てるかわからんけど!!!

 

総括にもならないしめちゃくちゃ長くなったしまとまりがないんですが久しぶりの舞台観劇でここまで興奮できて本当に幸せでした!むっちゃSAN値削れましたけど!あの世界にいる全員がどこか別の世界線で幸せな一生を送っている事を願ってやみません。ありがとうございました。